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法律行為の錯誤無効の適否、最高裁判決
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法律行為の錯誤無効の適否、最高裁判決


法人である上告人が、その理事長であったAに対し、Aの上告人に対する借入金債務の免除をしたところ、所轄税務署長から、その債務免除に係る経済的な利益がAに対する賞与に該当するとして、給与所得に係る源泉所得税の納税告知【源泉徴収義務者が所得税及び復興特別所得税を法定納期限までに納付しない場合において、税務署長が源泉徴収義務者に対して納付すべき税額、納付期限及び納付場所を記載した納税通知書を送達して所得税及び復興特別所得税の納付の履行を求めること】処分及び不納付加算税【源泉徴収による国税を国に適正に納付しない場合の行政制裁として、本税の10%徴収】の賦課決定【申告納税方式による国税の納税申告のように納税者によるものではなく、税務署長等による課税標準及び税額の決定】処分を受けたため、被上告人を相手に、これら各処分(ただし、納税告知処分については審査請求に対する裁決による一部取消し後のもの)の取消しを求める事案です。
 
Aの上告人に対する借入金債務の額は、平成19年12月10日当時、55億6323万0934円であったところ、上告人は、A及び同人の元妻から、その所有し又は共有する不動産を総額7億2640万9699円で買い取り、その代金債務と借入金債務とを対当額で相殺するとともに、Aに対し、相殺後の借入金債務48億3682万1235円を免除しました。
所轄税務署長は、平成22年7月20日付けで、上告人に対し、債務免除益がAに対する賞与に該当するとして、債務免除等に係る平成19年12月分の源泉所得税につき、納付すべき税額を18億3550万6244円とする納税告知処分及び納付すべき加算税の額を1億8355万円とする不納付加算税の賦課決定処分をしました。
 
平成26年6月27日課個2-9により旧所得基本通達36-17(債務免除益の特例)は、法令上明確化されたことから削除され、基本通達44の2-1(免責許可の決定等により債務免除を受けた場合の経済的利益の総収入金額不算入)が新設されました。
所得税法第44条の2第1項においては、「破産法第252条第1項(免責許可の決定の要件等)に規定する免責許可の決定又は再生計画認可の決定があつた場合その他資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難である場合」に債務免除を受けたときの債務免除益について、総収入金額に算入しないこととされているところ、通達44の2-1は、同項に規定する「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難」である場合の意義について、破産法の破産手続開始の申立て又は民事再生法の再生手続開始の申立てをしたならば、破産法の免責許可の決定又は民事再生法の再生計画認可の決定がされると認められるような場合であることを明らかにしたものです。
 
Aは「資力を喪失して債務を弁済することが著しく困難と認められる場合」に当たるとして削除された旧通達が適用されたため、債務免除益についても旧通達の適用により課税の対象とならないと考え、Aとその旨確認の上、債務免除をしたのであるから、債務免除益が納税告知処分の対象になるのであれば、上告人とAが確認した前提条件に錯誤【表示上の効果意思(一定の法律効果の発生を欲する意思)に対応する内心的効果意思が存在しないことを表意者自身が知らないこと】があり、これは要素の錯誤【改正民法において明文化され、法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要な意思表示に対応する意思を欠く錯誤、表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤】であるから、債務免除は無効である旨主張しました。
 
最高裁判決では、給与所得に係る源泉所得税の納付義務を成立させる支払の原因となる行為が無効であり、その行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われたときは、税務署長は、その後にその支払の存在を前提として納税の告知をすることはできないものと解される。
そして、その行為が錯誤により無効であることについて、一定の期間内に限り錯誤無効の主張をすることができる旨を定める法令の規定はなく、また、法定納期限の経過により源泉所得税の納付義務が確定するものでもない。したがって、給与所得に係る源泉所得税の納税告知処分について、法定納期限が経過したという一事をもって、その行為の錯誤無効を主張してその適否を争うことが許されないとする理由はないというべきであると考えながら、上告人は、債務免除が錯誤により無効である旨の主張をするものの、納税告知処分が行われた時点までに、債務免除により生じた経済的成果がその無効であることに基因して失われた旨の主張をしておらず、したがって、上告人の主張をもってしては、各部分が違法であるということはできない。そうすると、各部分が適法であるとした原審の判断は、結論において是認することができると判示しました。
 
また、補足意見【裁判官同士で議論して導いた法廷としての結論を多数意見と呼ばれ、多数意見に賛同した裁判官がさらに説明を尽くしたいときに述べるもの】として、一般に課税処分等の適否を争う訴訟において、その処分の原因となった法律行為の錯誤無効の主張がされ、その成否を審理判断するに際しては、事案に応じて、錯誤の対象、表意者の認識、重過失の有無等を認定された具体的事実に基づいて慎に検討すべきものであると説いています。
 

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